辞書の使い方の手ほどき Introduction to the use of English dictionary

 語彙を増やすための学習方略は多種多様である。
 英単語の学習のために、風変わりな学習をしている人を見たことがある。辞書を片手に、目に入った単語を無造作に何度も書き殴ることによって覚えようとしていた。スペルの書き間違いは減るかも知れないが、単語の意味をしっかりと覚えることが出来ているのだろうか。
 ある塾では、左側に日本語の単語がずらりと書かれ、右側にそれに対応する英語がずらりと書かれた一覧を生徒に渡し、暗記してもらい、塾で授業が行われるごとに、左側に日本語の単語が書かれ、右側が空欄になっている答案用紙が渡され、ひたすら日本語に対応する英語を書き入れるという学習をしていた。日本語の単語と英単語とが一対一の関係であるとは限らないのだから、一つの日本語の単語を一つの英単語に置き換えさせる機械的学習(rote learning)が成り立つとは限らない。
 たとえば、日本語の「牛」という単語を英単語に置き換えると多くの語に置き換えられる。まず、一頭一頭をまとめて呼ぶ場合と家畜として飼われた牛全体をまとめて言う場合で呼び名が分かれる。一頭一頭を指す「牛」に当たる単語はcow, bull, ox, steerなどである。雌牛はcow、雄牛は、去勢されていないものがbull、去勢された物がox。特に成熟前に去勢された雄牛や4歳未満の雄牛をsteerと呼ぶ。家畜として飼われた牛全体を雄雌の区別無く集合名詞として呼ぶ場合、cattleと呼ばれる。そもそも日本語と英語は一対になっていないのだ。
 また、オーズベル(Ausbel)はこう述べている。

機械的学習(rote learning)では、ある項目を獲得しても、互いに干渉しあい、非能率的な保持となり、条件付けなどの反復を重ねなければ消失してしまう。一方、有意味学習では、既にある概念の上に学習項目が獲得され、体型の中で「包摂され」(subsume)、より大きな全体的概念の中で位置づけられる。

新学習指導要領にもとづく英語科教育法 p.40

 つまり、英語を学ぶとき、英単語として分解して一つ一つを覚えていこうとするよりも、意味が理解できる文をそのまま学ぶ方が効率的な学習だと言える。
 果たして日本語と英語を対にして単語を一つずつ覚えていこうという学習方略が正しいか疑わしく思われる。このような学習方法で英語力(English proficiency)が身に付くかは甚だ疑問である。
 これから英語を学ぶ子供達にとって正しい辞書の使い方を身につけることは、英語学習の出発点である。英文を読み馴染みのない英単語に出くわしたとき辞書をひくことは、その意味を正しく読み解くために必要な技術である。
 日本語を母国語とする者にとって、英語は、語順の異なる言語である。このことが英文を読む際、日本語を母国語とする英語学習者にとって大きな壁となっている。英単語の意味を知らず、英語の語順が理解できていない生徒が、英文を読んで理解するためには、3段階のプロセスが必要である。まず、英単語を音声化する。次に各々の単語の意味を調べてその意味を日本語で書き出す。そして最後に書き出した日本語を正しい語順に並べ替え、意味を理解する。
 逆に日本語を英語に翻訳する際は、次の3段階のステップを踏む。先ず、日本語を読む。次に日本語の単語それぞれを英語にする。最後にその単語を正しい順に並べ替える。
 また、英語はアルファベットのままに発音されないことも更に学習を困難にしている。このことを考えれば、英単語を学習する上で意味だけではなく発音も同時に学ぶ必要がある。英語は表音文字のアルファベットで表されるため、学習に於いて発音を学ぶことがアルファベットの表記を学ぶことにもつながる。